工藤探偵事務所

Resarch and Investigation

フリーミアム、デジタルミレニアム、フリーエコノミクス、フリー、クリス・アンダーソン

kudo-shunsaku2010-01-07



現在進行形でベストセラーになっております「フリー」の話題です。*1

デジタルワールドを形成するウェブの経済に関心のお有りになる方、もしくは、現実世界で起こっているパラダイムシフト "Paradigm Shift" を理解しようとされる方、そして読書好きの方には既読かとも思われますが、良書なので是非とも未読の方々に御紹介させて頂きたいと存じます。


Introduction

『フリーとは、自由なのか?無料(ただ)なのか?。』

年末に探偵の後輩達とささやかな忘年会を行いましたが、その際に仲間の一人(ヒロト)が持っていて見せてくれた本がコレです。表紙がとても綺麗な青だったのが印象的で記憶に残りました。翌日に気になったので本屋さんに買いました。とても面白くて読み易いです。

フリー 〈無料〉からお金を生みだす新戦略

フリー 〈無料〉からお金を生みだす新戦略



FREE: Title of the Book

本書のタイトル "FREE" についでですが、内容から引用しますと、

『(両方の単語は)古英語の fron, freogan(自由、愛)に由来する。 …中略… だからfreeは、社会的意味からの自由、すなわち、奴隷からの自由と費用からの自由に由来するのだ。本書は、「費用からの自由」の意味でfreeを使う。そう、ビール一杯無料のフリーであり、後述する「フリーランチ」のフリーである。』

プロローグの冒頭、モンティ・パイソン "Monty Python" の逸話から始まるこの本の作者は、「ロングテール」"The Long Tail" のという理論をこの著作で旋風を起こしたご存知のクリス・アンダーソン氏 "Chris Anderson" の最新作です。彼は、Wiredの編集長でもあります。ウェブ 2.0 の本質的な部分を解明した方であります。

「ロングテール理論」の提唱者クリス・アンダーソン氏に聞く

ロングテール(アップデート版)―「売れない商品」を宝の山に変える新戦略 (ハヤカワ新書juice)

ロングテール(アップデート版)―「売れない商品」を宝の山に変える新戦略 (ハヤカワ新書juice)

The Long Tail

The Long Tail

実は、米国ではハードカバーで出版されている本は勿論有料なのですが、電子版としても公開されており無料で読めるだそうで、まさに本書の内容を地で行っております。ハイブリッドな世界の狭間で。

Free: The Future of a Radical Price

Free: The Future of a Radical Price

また日本でも米国と同様にサイト「フリーミアム.jp」が開設されて、そこで先着一万名で電子版が無料閲覧出来たそうなのですが、たった43時間で締切だそうです。またこのサイトでは本書のキーワードとして登場するフリーミアムについて下記のような説明があります。

フリーミアムとは?

フリーミアム =「フリー(無料)」+「プレミアム(割増料金)」
つまりそれは、現行までの「試供品を使った従来のビジネスモデル」
5%を無料(フリー)で提供して95%を買ってもらう
           ↓↓↓
フリーミアムを使った新しいビジネスモデル」

95%を無料(フリー)で提供して5% の人にプレミアム版を買ってもらう

クリス・アンダーソン著『フリー』、邦訳発売前に無料で全文公開

フリーミアム(Freemium)とは、基本的なサービスを無料で提供し、さらに高度な機能や特別な機能について料金を課金する仕組みのビジネスモデルである。フリーミアム」(Freemium)という単語は、「フリー」(Free、無料)と「プレミアム」(Premium、割増)という、ビジネスモデルの2つの面を組み合わせて作られたかばん語である。フリーミアムのビジネスモデルはWeb 2.0企業の人気を得た。』Wikipediaより。

フリーミアム - Wikipedia

Free: The Future of a Radical Price

Free: The Future of a Radical Price

本書の中では、ここで問うているフリーを経済学での相互扶助の概念で説明しています。つまり、フリーではあってもコストは誰かが負担している訳です、当たり前ですが。本書では、内部相互補助(他の収益でカバーすること)による4つのフリーのバリエーションとそれを利用したビジネスモデルの具体例も紹介されています。また同様にそれらを端的に箇条書きで表現した「無料のルール」が10個紹介されています。詳しくは本書をお読み下さいませ。

4 versions of FREE Business

4つのフリーのバリエーション
(1) フリー� 直接的内部相互補助 "Direct Cross Subsidies" : 商品本体は安価または無料にして、消耗品や通信費で収益を上げるタイプ。ジレットの髭剃りが本体は安くして替え刃で利益を出した例や、日本での100円PCのような例など。
(2) フリー�三者間市場 "3rd Party Markets" : サードパーティが無料のマーケットを提供するタイプ。消費者と広告主を結びつけるなど。日本でのフリーペーパーのような例など。
(3) フリー� フリーミアム "Freemium" --- free(無料)とpremiumを組み合わせた造語: 一部のプレミアム利用者は有料(サービス内容も上)で、その他の利用者は無料というタイプ。プレミアム利用者の利用料で、無料の利用者の費用までまかなうというもの。
(4) フリー� 非貨幣市場 "Nonmonetary Markets" : Wikipediaのように対価なしで貢献してくれる利用者がいることで無料になるタイプ。

10 Rules of FREE

無料のルール
(1) デジタルのものは、遅かれ早かれ無料になる
(2) アトムも無料になりたがるが、力強い足取りではない
(3) フリーは止まらない
(4) フリーからもお金儲けはできる
(5) 市場を再評価する
(6) ゼロにする
(7) 遅かれ早かれフリーと競いあうことになる
(8) ムダを受け入れよう
(9) フリーは別のものの価値を高める
(10) 稀少なものではなく、潤沢なものを管理しよう

米国ワイアード "WIRED" のサイトで本書の内容が一部参照出来ます。

Free! Why $0.00 Is the Future of Business

内容の一部を掻い摘んで御紹介しますと、「情報はタダになりたがる(Information wants to be free)」の全文 by Stewart Brand @ Hackers' Conference in 1984 という発言があったそうです。

On the one hand information wants to be expensive, because it's so valuable. The right information in the right place just changes your life. On the other hand, information wants to be free, because the cost of getting it out is getting lower and lower all the time. So you have these two fighting against each other.
一方において、情報は高価になりたがる。なぜなら、非常に価値のあるものだからだ。適切な場所に置かれた適切な情報は、人々の人生を変え得る。またその一方で、情報は無料になりたがる。なぜなら、それを得るコストは次第に縮小していくものだからだ。つまり相反する2つの方向性が存在しているのである。
上記の発言をクリス・アンダーソン氏は上記の全文を、次のように置き換えてみてはどうかと提案しています:

Commodity information (everybody gets the same version) wants to be free. Customized information (you get something unique and meaningful to you) wants to be expensive.
(誰もが同じバージョンを手にする)コモディティな情報は無料になりたがる。(ある人にとって価値のある姿をした)カスタマイズされた情報は高価になりたがる。

さらなるショートバージョン:
Abundant information wants to be free. Scare information wants to be expensive.
ありふれた情報は無料になりたがる。希少な情報は高価になりたがる。

本書を読むと分かりますが、ブランドがサムソン(ピーター・サムソン)の言葉を引用しているのですが、サムソンの発言は「フリーになるべきだ」を「フリーになりたがる」に変えているのだそうです。


詳細は以下のブログを御参照下さい。

POLAR BEAR BLOG - 「情報はタダになりたがる」(Information want to be free)の全文って知ってた?

本書の発表以前から前作の例に漏れず、各所、各界で反応や反論がある様子ですが、それも面白いものです。

書評:『フリー <無料>からお金を生みだす新戦略 FREE The Future of a Radical Price』クリス・アンダーソン/NHK出版 - Simple is Beautiful

ベストセラー故に、この他にもネットには大量の書評がアップされていますので、探して御覧下さいませ。

Free: The Future of a Radical Price

Free: The Future of a Radical Price

My Impressions and My Feelings

探偵は本書を未だ完読していないのですが進行形の感想としては、ウェブ2.0で始まったインターネットの現在時点の流れまでを復習している内容であり、また自身の日頃の夢想があながち間違っていないということを裏付けの意味で補完していくれるような心地よい清涼感に満たされている状態で御座います。夢想とはつまり、ビットとアトムの違い "Bit and Atom" とそれらのコピーによる真偽の違いと対価についての捉え方です。『アナログコピーは贋作、デジタルコピーは本物』ということがパラダイムシフトの要因となっていることです。

また本書では、懸案の貨幣経済だけでなく、行動経済学、心理学もしくは人間行動学、数学の進化、電子計算機の歴史、情報処理と光学、トム・ソーヤの冒険、キング・ジレット "King Camp Gillette" の閃き、バイラルマーケティング鉄道模型マニアの達観、グーグルとユーチューブ、それにヤフーとマイクロソフト "Google and YouTube, Yahoo!, Microsoft."、グラウド・コンピューティング "Cloud Computing"、レディオヘッド "Radiohead" の伝説、オリオン座の近くで燃えた宇宙船 "Attack ships on fire off the shoulder of Orion" やタンホイザーゲートのオーロラ "C-beams glitter in the dark near the Tannhauser gate" などなど、頁を読み進める毎に様々な蘊蓄が散在されている有様で刺激の連続で御座います。それ故に何度も立ち止まり繰り返し読み返すので中々前進しないのも真ではあります。現在進行形で読んでいる章の周辺箇所から印象に残ったものを備忘のためにも以下に一部を抜粋して記載させて頂きます。

第12章 非貨幣経済 - 金銭が支配しな場所では、何が支配するのか

1971年、情報化時代の夜明けに、社会学者のハーバート・サイモンは次のように記した。
情報が豊富な世界においては、潤沢な情報によってあるものが消費され、欠乏するようになる。そのあるものとは、情報を受け取った者の関心である。つまり、潤沢な情報は関心の欠如をつくり出すのだ。
サイモンの観察は、最古の経済原則の一つも表明したものだった。…以下、省略… 

第13章 (ときには)ムダもいい - 潤沢さの持つ可能性をとことんまで追求するためには、コントロールしないことだ。

これはムダを受け入れるための教訓だ。…中略… それで今日の革新者とは、新たに潤沢になってものに着目して、それをどのように浪費すればいいかを考えつく人なのだ。うまく浪費する方法を。…中略… 彼らの中では今でもカチカチとなる料金メーターの音が聞こえているので、急いで電話を終わらせようとする。…中略… 私たちはそれを気にすることをやめた。もはやムダだと感じないからだ。つまり、世代が違えば希少なものも潤沢になりうるのだ。

自然は命をムダにする

私たちの脳は、ムダなことに抵抗を感じるように配線されてるようだ。…中略… 自然界の生き物はそうではない。クロマグロは一回の産卵で1000万個もの卵を放出する。成体になるのはおそらくそのうちの10個くらいだ。ひとつが生き残るために100万個が死ぬ計算になる。…中略… 自然界にこれほどムダが多い理由は、数学者が言う「ありうべき空間の完全な探査」をおこなうためには、やみくもに撃ちまくる戦略が最良の方法だからだ。…中略… SF作家のコリィ・ドクトロウは、これを「タンポポの考え方」と呼んでいる。タンポポの視点から見れば、…中略… タンポポはただひとつの貴重なコピーを世話して、それがやがて自分のもとを離れ、注意深く道を選んで生育に最適な環境へと到達し、そこで家系を永続させることを望んだりしない。タンポポが望むのは、あらゆる繁殖の機会を利用することなのだ。




最後にここまでで一番印象に残った文言を記載します。

『つまり、オンラインでフリーが機能する理由を理解するのに学位は必要ない。ただ経済学のテキストの頭から10章くらいを無視すればいいのだ。』第11章ゼロの経済学より。


この文言がネットでのフリーの意味するパラダイムシフトを表現している件だと感じます。そして、筆者もまさにフリーランチのフリーライダーの如く御紹介しましたが、ご興味を持たれましたら、是非とも御一読をお薦めさせて頂きます。

" I've seen things
you people
wouldn't believe.

Attack ships
on fire
off the shoulder
of Orion.

I watched
C-beams
glitter in the dark
near the Tannhauser gate.

All those moments
will be lost
in time,

like tears
...
in rain
...
Time to die. "


Roy Batty, Nexus 6
(Rutger Hauer)








Contents of the Book

ご参考までに目次を以下に記載しておきます。

Free: The Future of a Radical Price

Free: The Future of a Radical Price

プロローグ
第1章 フリーの誕生 

無料とは何か?
第2章 「フリー」入門 ── 非常に誤解されている言葉の早わかり講座
第3章 フリーの歴史 ── ゼロ、ランチ、資本主義の敵
第4章 フリーの心理学 ── 気分はいいけど、よすぎないか?

デジタル世界のフリー
第5章 安すぎて気にならない ── ウェブの教訓=毎年価格が半分になるものは、かならず無料になる
第6章 「情報はフリーになりたがる」 ── デジタル時代を定義づけた言葉の歴史
第7章 フリーと競争する ── その方法を学ぶのにマイクロソフトは数十年かかったのに、ヤフーは数ヶ月ですんだ
第8章 非収益化 ── グーグルと二一世紀型経済モデルの誕生
第9章 新しいメディアのビジネスモデル ── 無料メディア自体は新しくない。そのモデルがオンライン上のあらゆるものへと拡大していることが新しいのだ
第10章 無料経済はどのくらいの規模なのか? ── 小さなものではない

無料経済とフリーの世界
第11章 ゼロの経済学 ── 一世紀前に一蹴された理論がデジタル経済の法則になったわけ
第12章 非貨幣経済 ── 金銭が支配しない場所では、何が支配するのか
第13章 (ときには)ムダもいい ── 潤沢さの持つ可能性をとことんまで追究するためには、コントロールしないことだ
第14章 フリー・ワールド ── 中国とブラジルは、フリーの最先端を進んでいる。そ
こから何が学べるだろうか?
第15章 潤沢さを想像する ── SFや宗教から、〈ポスト稀少〉社会を考える
第16章 「お金を払わなければ価値のあるものは手に入らない」 ── その他、フリーに対する疑念あれこれ

結び ── 経済危機とフリー
巻末付録(1):無料のルール──潤沢さに根ざした思考法の10原則
巻末付録(2):フリーミアムの戦術
巻末付録(3):フリーを利用した50のビジネスモデル
日本語版解説(小林弘人)

フリー 〈無料〉からお金を生みだす新戦略

フリー 〈無料〉からお金を生みだす新戦略

*1:-ポール・コゾフ "Paul Kossoff" が在籍していたイギリスのバンドでは御座いません。-