工藤探偵事務所

Resarch and Investigation

Shipbuilding and Wheelchair

kudo-shunsaku2006-03-23


昨日の夕方、しとしとと春の雨が降ってきた。

皆、傘の用意がなくて小走りに家路を急いでいた。
同じく、私も雨を避ける様にバス停に向かった。

バス停には、既に行列ができていた。
その列の少し離れた場所に車椅子の人が居た。

バス停には、雨よけのための少しばかりの屋根がある。
その端っこに車椅子の人が下を向き俯いてバスを待っている様子だった。

ほどなくして一台のバスが到着した。
行き先が違うので次を待つことにした。
車椅子の人も乗らない様子。
直ぐに二台目が来た。
皆がこの行き先の様子で乗り込んでいる。
私もこのバスに乗り込んだ。

列の最後に居た私がバスに乗り込むと、
突然バスの運転手さんが、マイクで喋った。

「乗りますか?」

すぐさま、

「ハイ」

もしかすると、誰かの帰りを待っているのかと思いもしたが、
やはりバスに乗るようだ。

バスの車内は混み合っている。
雨の日特有の湿度の高いねっとり感が暗闇に助長されて
車内は陰鬱な雰囲気に包まれている。

運転手さんは、バスを止めて運転席を降りた。
雨の中、彼は車椅子で乗り込むためのリフトを設置した。
そして、車内に座っていた人に声を掛けた。

「車椅子の人が居ますので。」

気が付いて、そそくさと立ち上がる女性二人。
混んでいて奥の方が良く見えないが、
バスの中に車椅子の人が乗り込んで固定された様子だ。

「XXまで乗ります。」

搾り出すような声が聴こえた。
終点まで乗ることを運転手さんに告げた。

以前から気になっていたが、
最近のバスは車椅子の人がそのまま乗れる造りになっている。
もっと良いバスだと昇降用のリフトも自動操作になってるのもあるはず。

バス車体中央の降車口の直ぐ傍にある座席二つが折りたたまれ、
そこに車椅子が入りベルトで固定されるという仕組みである。

でも実際にどのように使われるのか?観たことが無かった。
ちゃんと乗れるのだろうか興味があった。

車椅子の人が乗り込むと運転手さんが戻りバスが発進した。
運転手さんは雨の中、きびきびと行動していた。

バスが走り出したが、まだ気になっていた。
混雑する車内の奥に埋没している車椅子を探した。
バス停では顔を俯いていて良く判らなかったが、
まだ若い女の子だ。
毛糸の帽子を被っている。
そうか車椅子だと雨の日は傘がさせないのかぁ。
俺はそんな事も気づかなかった。

同情するのは、畑違いなのは承知している。
彼女が何故、車椅子に乗っているのかも知らない。

でももし俺が車椅子だったら?と考えずに居られない。
何せ交通事故に三度もあっているタワケであるし。
ちなみに骨折は四回。
以上、ほとんど小学生の時。
そうでなくても考えずには居られない。

頭の中でロバートワイアットの唄うシップビルディングが聴こえてきた。

一人で車椅子に乗って外出するだろうか?
車椅子でバスに乗ろうとする勇気だあるだろうか?
狭く重苦しいバスの中で大きい車椅子に乗って小さく縮こまってられるだろうか?

談笑する声が聴こえてきた。
再度、声のする方を観ると、車椅子の前の
折りたたまれた座席に寄りかかり可愛い女の子いる。
どうやら途中から乗ってきた彼女の友達のようだ。
混雑する車内の人垣の隙間から、歯並びの悪い白い歯がこぼれている。
車椅子の彼女の明るい笑顔であった。