工藤探偵事務所

Resarch and Investigation

 『探偵通信 第92号 2007年02月02日発行 お父さんとのお別れ』

kudo-shunsaku2007-02-03


この記事を公開するか否か迷いました。
でも誰もが避けて通る事が出来ないものです。
そして自分の後悔と懺悔の意味も含めて。





先週の木曜日 1月25日、
夜中の1時半に携帯電話がなりました。

その日は外出して疲れており、
早めに横になっていた探偵はあまりの眠気のため
電話を取ることが出来ませんでした。
やがて探偵の携帯電話の応答メッセージが流れ、
何かメッセージが録音された様子でした。

小一時間程経ってから、むっくり体を起こして
携帯電話を見ると旭川の実家から着信の模様。
「またかよ。」
と想いつつメッセージを確認すると、妹の声で、
『お父さんが倒れて病院に運ばれた』
とのメッセージでした。

それから実家に電話をしても誰も出ず。。。
まんじりとした不安の中、ウィスキーで気を紛らわせながら
朝まで待ちました。

思い起こせば。。。
実はこの一週間前に自宅から電話が着て一悶着あったのです。

一週間程前、会社にまだ居る夕方頃、探偵の携帯電話が鳴りました。
液晶を見ると、めったに掛かってこない故郷旭川の実家からでした。
この急な電話に二年程前「お父さんが倒れて病院に担がれた」、
という事を思い出さずには居れません。

慌ててして電話に出てみると、そちらに荷物を送ったとの事。
要するに荷物で食べ物を送ったから受け取れという話。
驚いたのと安堵、大した用事でないのに面倒なことばかり言う、
複雑な思いに駆られ、何だか無性に腹が立ち
思わず罵詈雑言を吐いてしまいました。

電話で直接話すといつもそんな感じになってしまう。
結構粗雑に扱ってしまいます。
お母さんは耳が遠いので、何度も繰り返し話しているうちに
どうしても語気が荒くなってしまいます。
身近な人には存外、手荒に扱ってしまいます。

でも今回は多少、後悔の念もありました。
なので珍しく、手紙を書くことにしました。
郷里ではインターネットどころか、携帯電話も持っていないので、
メールでメッセージを送ることが出来ません。

葉書を買ってきて、自筆の汚い字で葉書を書いて送りました。
果たして、何十年ぶりの手紙なのでしょうか?

そういったやり取りがつい先日ありました。
そこで携帯電話がなったので、また荷物の事かと。

でもこんな夜中に電話?と思い携帯電話を確認したら、
「お父さんが倒れた」とのメッセージだったのです。

妹のメッセージも途中で切れていて様子が分かりません。
実家に電話を掛けても誰も出ません。
どうやら妹も病院にいった様子で連絡が取れません。
病院の名前も分からず、携帯電話すらも持ってないのですから。

朝方、うとうとしているとまたも携帯電話が鳴りました。
電話に出る前に切れてしまいましたが、公衆電話からでした。

それから数十分、歯を磨き、髭を剃りながら電話を待ちました。
今度は知らない電話番号からの電話が掛かってきました。
その電話に出ると叔父さん(母の弟)からでした。

お袋さんに様子を聴くと、
倒れた時から危篤で意識がないこと。
脳内出血で既に手の施し様が無いこと。
後、数時間で息を引き取るらしいこと。

以前、お父さんが倒れた原因は『脳梗塞』でした。
それ故、『血が固まらない薬』を服用していたため、
出血の場合、何も出来ないのだそうです。

着いたら連絡する旨を伝えて、
すぐさま旭川に行くために羽田空港に向かいました。

旭川空港に着いて、叔父さんの携帯に電話をしましたが、
お父さんは既に息を引き取った後でした。



平成19年1月26日 金曜日 10時48分 お父さんが永眠しました。



死に目に逢えなかったけど、昨夜から意識が無かったそうです。
倒れてから苦しむ事も無く、そのまま召された様子でした。

病院ではなく家に来いと言うので、
途中の百貨店でネクタイとシャツを買いました。
服はいつも上下黒なので助かります。
いつでも喪服の代わりになるという意味でも
普段から黒の洋服を着ているのですが、
実際には心の方は準備はあまり出来ていませんでした。

家に帰るとお父さんも自分が建てた家に戻ってきていました。
白い布を捲ると、死に顔は安らかで笑っているようでした。
今にもムックリと起きてきそうです。

腐らないように保冷剤が身体の上に置かれています。
入れ歯が落ちないようにしているためなのか、
死に顔は笑っているようでした。

遺髪を少しだけ切りました。
もともと短髪なので格好悪くならないように少しだけ。

叔父さん、叔母さん達が来てくれました。
近所の方が御悔みを言いに来てくれました。




大分以前に旭川空港まで送ってくれた時、
お父さんがしていた腕時計があまりにも安物だったので、
自分がしていた時計を腕につけてあげました。
手巻きのオメガ・スピードマスターです。
でも結局、全然使ってくれなかった様子です。
そういえばと想い出して、形見にはなりませんが、
閉まってあったその時計を身に着けて葬儀に出る事にしました。
親父さんはラジヲや時計も大好きなのですが、
長年培った性分なのでしょう、安いものしか買わないのです。
急に詰まらない事ばかりが想い出されます。

そして翌日の御通夜、翌々日の告別式、火葬、と忙しい時間を過ごしました。
引き出物が何個だの、オードブルが幾つ必要だとか、布団の枚数、朝飯と昼飯の個数、挨拶の文面、写真の焼き増しの枚数、お花の並び、弔電の順番。。。
御通夜と葬儀では、記念写真を撮ったり、棺おけに釘をうったり、
拾った骨を壺の中で摺り崩して、壺に入るように。最後に咽喉仏を載せます。
本当に疲れました。
式場の係りの人と叔父さん方の相手をするのが本当に疲れました。

探偵は長男で初孫でありました。
社交的では無い親父さんだったので、親父さんの兄弟姉妹つまり、
親戚の叔父さん叔母さんでさえも面識は薄いです。
故郷に居た際には、あまり逢ってない親戚の方ばかりです。
探偵は18歳で家を出たので、知っている従兄弟達は皆小さかった。
覚えている従姉妹は5歳位の時で、今ではしっかり子持ちだったり。
ましてや初めて見る従姉妹も居ます。
兎に角、誰が誰だか判らない。
更には、叔父さん方の話は要領を得ず判らない。
大体、モゴモゴ話すので何を喋っているのかすら分からないし。
話を聴いているのが辛い。
御通夜では、それを紛らわすために、
一杯お酒を頂いて酔っ払ってしまいました。
もっと従姉妹達とも話しをしたかったのだけど、
叔父さん方の相手で手一杯。。。そして爆睡。


実は通夜の日は、昔からの仲間達との久々の新年会の予定でした。
学生の頃からの仲間達で、バイト仲間でもあります。
御通夜の宴会で丁度かなり酔いもまわった頃、電話が掛かってきました。
厨房チーフのエンドウさんから新年会に出られないとの事でした。
探偵は現在、旭川なんです。
親父のお通夜なんです。
エンドウさんが好きなバター飴買って帰りますね。
次回は、一緒に呑みましょうね。


翌日も二日酔いで辛かった。。。
翌日も予定が分刻み。
火葬場も予約制じゃないらしく、しかも本日は混みあっているそうな。
なので到着次第の早い者勝ちみたい。だから5分前倒しで。。。
死んでまで世知辛い。

でもお父さんに恥じること無い立派な式を執り行うことが出来ました。
近所の方々のお陰です。有難う御座います。


晩年、
お父さんは脳梗塞で倒れた後、多少体が不自由になりました。
そして、車の運転も大好きな煙草もお酒も呑めなくなりました。
でも一ヶ月程度で退院しては、リハビリに励みました。

お父さんは、18歳で入隊して以来ずっと勤め上げた自衛隊にて
鍛えあげた身体ですので頑丈に出来ています。
まだ探偵が小学生の頃、バイクでバスと接触事故で
ガードレールの向こう側まで跳ばされた時も、
病院を抜け出し、そのまま家まで自分で帰ってた人です。
足の指を骨折した時も、自分で車を運転して家まで帰ってきましたし。

リハビリでは、散歩をしていました。
脚を引き摺るようにビッコになりましたが、
お母さんと二人で近所を歩いていた様子です。
亡くなった当日も独りで散歩して家の前の雪かきもしていました。
近所のお婆さんがそう教えてくれました。

厳しい人でしたが、倒れた後はすっかり子供に戻って居たようです。
今年の正月に急にお酒を呑みたいと言い出したそうです。
妹の目を盗んで、お袋さんと二人で甘酒の缶を半分づつ呑んだそうです。
そして
「もっと呑みたい」
と何とも言えない愛嬌のある顔を見せてくれたそうです。
その話を聴いて、もしこうなる事が判っていれば
好きなだけ呑ませてあげれば良かったと、妹が泣いていました。


こうしてお父さんとお別れしてきました。
結局、二年前に倒れた時に病院で逢ったのが最後になってしまいました。
お父さんは病院のベッドであどけない顔をしていました。


先日、探偵が何十年振りに家に出した手紙を
お袋さんが親父さんに見せたそうです。
文末に書いた文言
「人に優しく出来るように精進して参ります。」
というのを見て、
「立派になったね。」
とお袋さんが声を掛けるとニタニタしていたそうです。
手紙を書いて良かったです、本当に。
何も恩返しをする事が出来ませんでした。
『今まで育ててくれて有り難う。』
念仏と共に、それだけを伝えました。


厳しく真面目だけが取り得のお父さんさんでしたが、
一生涯、人様に迷惑を掛けず清貧ともいうべき生活を過ごしました。
晩年は柔和になり、苦しまず安らかに天国に召されました。
灰になったお父さんは小さな壺にはいりました。


皆さんにはお花や弔電を沢山頂きまして、
恥ずかしくの無い立派なお葬式を挙げる事ができました。
有難うございます。

皆さんには、色々ご心配、ご迷惑をお掛けしました。
また暖かいお言葉の数々、有難うございました。

皆様も健康だけは気をつけて。
そしてご両親がご健在であれば大切にして下さい。
そしてまた皆に逢えるのを楽しみにしてます。

探偵の工藤より。





追伸:

今日はテレビで『千と千尋の神隠し』が放映されてました。

この物語は、「八百万の神々」が集う温泉旅館が舞台になっていました。湯婆婆の双子の姉、銭婆に行く時に千が電車のりますが、そこには、薄い影の人々が沢山載っています。川を渡ったそこは黄泉の国なのですね。神様も一杯いらっしゃることですし。

ところで話の冒頭ですが、主人公の『荻野千尋』が名前を剥奪されて『ちひろ』から『千』になってしまいます。探偵の場合だったら『千』ではなくて『一』になってしまいますね。
探偵の本名は『かずひろ』ですので。

そうすると探偵の周りの白竜や釜爺、顔無し、青蛙そして湯婆婆と銭婆は一体誰になるのかな?

那仏再見。